国際アジア選手権で得た経験を2026名古屋アジア競技大会へつなぐ

Photo by:ぉまみ / SOFT TENNIS Navi

ソフトテニス,国際審判

先月、韓国のムンギョンで開催された第9回アジアソフトテニス選手権。その審判団として日本からは公益財団法人日本ソフトテニス連盟審判委員会の増木博一委員長をはじめ、竹田佳恵氏、浅野守弘氏、渡邉宏康氏、髙橋慎典氏の5名の国際審判員が参加した。

来年名古屋で開催されるアジア競技大会に向け、今回の現地での経験は大きな財産になったという。日本を代表して国際大会で実際に審判を務めた4人の審判員に、今回の経験を通じて感じたことや大会運営の難しさ、そして今後の大会に向けた想いを伺った。

国際大会で感じた難しさ

多様な参加国から構成される審判団のなかで大会運営を進めていくなかで、最も苦労したのは「言葉の壁」だとそれぞれが語った。

渡邉

「僕が今回一番難しかったのは、他の国の審判の方と一緒にジャッジをするなかで、言葉がうまく通じなかったことです。審判の判定区分は尊重しなければいけませんが、どう見ても違うように感じる場面があったときに、その区分を超えて説明をしなければならない場面もありました。そうしたときに自分の意図を通訳さんを介してしっかり伝えるのが難しかったです。
また、国際大会になると日本のルールとは少し異なる点もあり、そうした違いにどう対応していくかという部分にも難しさを感じました」

高橋

「少しでも英語が使えれば、もう少しスムーズに意思疎通ができたのではないかとも感じました。
日本の審判員は日本選手の試合を担当しないため、他国の選手同士の試合で副審も海外の方と組むことになります。そうすると、コート上には自分を含めて4カ国の人間がいるわけです。その4カ国が一つの共通認識を持って試合を進めるというのは、やはり難しさを感じる場面もありましたね」

竹田

「日本の審判は状況を見て合わせる傾向がありますが、他国の審判は独自の判断で進めていくので、合わせられないことが難しかったです」

浅野

「コリアカップや今回のアジア選手権を経験することで、何が起こるかを予測できるようになりました。経験値の差で試合の進行やトラブル対応もスムーズになります。通訳がいなくても、だいたいどのように対処すべきかが分かるようになったのは大きな収穫でした」

髙橋慎典氏(東京都ソフトテニス連盟)
竹田佳恵氏(愛知県ソフトテニス連盟)
渡邉宏康氏(愛知県ソフトテニス連盟)
浅野守弘氏(愛知県ソフトテニス連盟)

日本国内との大きな違い

他国の審判や選手たちと意思疎通の難しさを語る一方で、審判を尊重する文化も感じたという。

高橋

「選手たちは、審判を尊重しようという意識が非常に強く、日本以外の国ではその姿勢がとくに顕著です。逆に日本では審判の扱いがやや軽く見られることもあると感じます。他国では、審判の判断が絶対的なものとして尊重されており、その点で大きな違いがあります」

今大会の選手宣誓のなかにも「審判の判断に絶対的に従います」とあり、この姿勢は日本にも取り入れるべき良い文化だといえる。

韓国では、選手が引退するとナショナルチームのコーチや監督だけでなく、審判になる人も多くいる。かつてのレジェンド選手たちが審判として大会に携わる。今回の大会で見かけた韓国の審判員も全員が元選手であり、その経験を生かして審判として活躍している。
こうした背景があることも、選手たちが審判をリスペクトする文化につながっているのかもしれない。

国際大会の審判として心がけること

審判として心がけているのは、選手がベストを尽くせる環境を作ることだという。

渡邉

「選手がプレーしやすいように、正確かつ円滑に試合を進めること。誤審を防ぎつつ、テンポよく進められるようにすることが大事です」

浅野

「全ては公正公平、なおかつ選手ファーストです。選手がおかしいなと感じた瞬間にも寄り添い、スムーズにゲームを進められるようにしています」

高橋

「透明性を保つこと。選手にも観戦している人にも分かりやすいようにすることを意識しています。試合が終わったあとには『ナイスプレーでした』などと選手に伝えることで信頼関係を作ることも重要だと考えています」

竹田

「日本でも国際大会でも、選手が気持ちよくプレーできる環境をつくること。それが私たち審判員にとって大切な使命だと改めて感じました。今回、韓国の審判員の方々からとても良い刺激を受けました。毎朝のミーティングでは、『今日も笑顔で終わりましょう』という掛け声が交わされるんです。その言葉を聞くたびに、勝負の場であると同時に『人と人がつながる場』でもある大会の意味を再認識させられました。
また、代表選手たちはそれぞれの国の想いを背負ってコートに立っています。私たち審判もその熱い想いを受け止め、同じ気持ちで試合を支えているつもりです」

2026名古屋アジア競技大会に向けて

来年の名古屋でのアジア競技大会に向けて、今回の経験を次につなげることが重要だと話す。

浅野

「来年名古屋で開催されるアジア競技大会には、日本の審判員ももちろん参加します。だからこそ、今回ここで得た経験をしっかりと伝えていかなければならないと感じています。国際大会では想定していなかったトラブルや対応が起こることも多く、話を聞いているだけではなかなか実感できません。実際に自分の目で見て、肌で感じてこそ分かることがたくさんあります。だからこそ日本の審判員たちには『怖がらずに、どんどん挑戦してほしい』と伝えたいですね。国外の選手を裁く経験を積むことで、判断力も対応力も大きく成長します。そうした経験値を持つ審判員が増えていけば、次に日本で国際大会を開催するときにも、きっとその力が活かされるはずです」

高橋

「日本国内の大会と国際大会のあいだではルールや運用の細かい部分でどうしても違いが出てきます。その認識のズレをしっかりと合わせていくことが非常に大切です。アジア競技大会が始まる前の1〜2日間がとく重要で、その時間のなかでどれだけ正確に共通認識を持てるミーティングができるかが大会運営のカギになります。そのためにも我々審判が要点を整理して、的確に説明していくことが求められます。
今大会では、増木委員長が国際ルールと日本ルールの違いを毎日会議で整理して共有してくれたおかげで、国際審判員の間での認識はかなり統一されてきました。ただ、それだけで終わってはいけません。審判員同士の理解を深めるだけでなく、監督会議などを通じて選手や監督にも同じ認識を伝えることが最終的に重要になります。
選手たちがルールを理解し納得したうえでプレーできれば、試合もスムーズに進みますし、フェアな環境が整います。そのための“橋渡し役”が、私たち審判の役割でもあると感じています」

国際審判員を志す人へのメッセージ

渡邉

「今回国際大会に参加することで、いろいろな国のソフトテニスの現状を知ることができました。日本では新しいウェアやラケットをすぐに買い替えられますが、新興国では10年以上前のモデルを使っているチームもあります。現地調達で何とか参加している国もあり、そうした姿を見ると「強いチームが勝てばいい」だけではなく、頑張っているチームを支え合う仕組みが広がってほしいと感じました。
自分は選手として特別な実績があったわけではありませんが、ソフトテニスが好きで、何か関われる道を探したときに審判という形にたどり着きました。今後もこの競技に関わる人たちと協力し合いながら、つながりを広げていけたらと思っています」

浅野

「どんなことにも共通して言えるのは、“好きなことを続けることの大切さ”だと思います。僕の場合はプレーヤーとしてではなく、審判という立場にシフトしましたが、それは“選手たちを一番近くで見たい”という思いから始まりました。審判として高いレベルを目指して努力を続けていけば、国際大会のような大舞台に立つこともできます。それはプレーヤーも同じで、努力を積み重ねることで、きっといろんな世界を見ることができる。そういう可能性があることを、より多くの人に知ってもらえたら嬉しいですね」

高橋

「日本では、どうしてもプレーヤーとして成功することがすべてのように捉えられがちです。選手を引退したあとは、コーチや監督といった形でしか関わる道が少ないのが現状ですよね。一方で韓国では、元選手や元代表が審判として大会運営に関わり、権威を持って現場を支えている姿が印象的でした。運営サイドにもそうした経験者がいることで、競技全体に厚みが出ていると感じます。私自身も指導者として、こうした関わり方の選択肢があることを、選手たちに伝えていきたいと思っています。
選手、監督、審判、それぞれがお互いにリスペクトを持ちながら取り組むことで、誰もが楽しんでソフトテニスに向き合える。今回の大会では、勝っても負けても本当に楽しそうにプレーする姿が多く見られ、「これこそがソフトテニスの原点だ」と改めて感じました」

竹田

「国を代表して戦うことの重さは、やはり選手本人たちにしか分からないと思います。私たちはその思いに少しでも寄り添い、力になれるように、審判という立場からサポートしています。こうして代表選手のすぐそばで大会に関わらせてもらえることは、本当に幸せなことです。簡単にできる経験ではありませんから、選手たちの気持ちをしっかり汲み取りながら、国際大会が成功するよう全力を尽くしていきたいと思います」

今回のアジア選手権での経験を通じて審判員たちが語ったのは、国際大会特有の難しさや、審判としての責任の重さと同時に、大会運営を支えるその使命、やりがいの大きさだった。国際大会という大舞台で審判員も努力を積み重ねることで、選手と同じく成長の喜びにつながっている姿が印象的だった。

来年名古屋で開催されるアジア競技大会では、今回の経験を生かし、日本代表審判員たちがどのように大会を支え、活躍するのか。選手たちと共にフェアで熱い試合を創り上げるその姿に、大きな期待が寄せられる。

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